宮部みゆき「魔術はささやく」をひさしぶりに再読した。
私が初めて読んだ宮部作品だっただけに多少の思い入れもあるわけだが、今回も面白く読めた。
この小説を面白く感じるかどうかの分岐は、少年好きかどうかであると思う。
いや、変な意味でなくて(笑)。
これがミステリである以上、謎解きがひとつの重要な要素であることは言うまでもない。しかし、それが作品のすべてではないところに宮部みゆきの本懐があり、彼女が松本清張以来の国民作家たりうる部分でもある。
つまるところ、少年の成長物語なのだ。青春小説といっても、間違いではない。
殺人事件に巻き込まれ、やがては犯人にたどり着くわけだが、そこでおしまいではなく、文庫解説で北上次郎さんがおっしゃられているように、真のクライマックスはその先にある。
ストーリーで魅せるのではなく、あくまで人物を軸に物語る点において、私は宮部さんを高く評価している。
催眠術やサブリミナル効果が取り上げられていることで、荒唐無稽の話だ、と思われる人もいるだろう。
無論フィクションであることに違いはないので、その効果がオーバーなのは事実。ただ、その筋の専門家からすれば、実際に人(かかりやすい)を操ることは可能のようだ。
ちょっと前に、ハーレム男なる人物が話題になったことがあった。彼は、(かかりやすい)女性に催眠術で暗示をかけてあのような生活をしていた(いまもそういう生活をしているようだが)。
オウム真理教のようなカルト教団はマインドコントロールの方法を駆使して繋ぎとめている。
人間は案外いいかげんで単純だ。
とまれ、本書を読めば――さわやか、という形容は的確ではないかもしれないが――多くの人が心地よい読後感を得られるのではないかと思う。
80 点
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